小学一年の思い出3
小学一年の思い出2 のつづき
その後、この出来事がどうなったかは、全く覚えていない。
というより、家に入った時点で解決だった。
母は厳しかったが、済んだことをいつまでも言う人ではなかった。
済んだ?
教育的効果があがったということなら、残念ながら全然済んではいない。
叱られたワケを、簡単に言うと、私が嘘をついたことがバレてしまったのだ。
妹をおぶって、綿の入ったネンネコに袖を通しながら、母が言った。
「学校へ行って、○○先生に、母が来るので待っててくださいって言って」
晩秋の夕暮れは早く、午後四時半ごろになると、もう、薄暗かった。
かまくらにゃんごろうさんによる写真ACからの写真
坂道の中腹にあったわが家から学校へ行くには、切り通しの石段を五十段ほど登らなければならないのだが、石段の両側には深い森が覆いかぶさるように迫っていて、ホーホーとフクロウが鳴いている。
石段の下まで走っていった私は、上を見ないようにしながら石段に一歩、二歩、足を、・・・掛けたか掛けなかったか・・・、怖くて怖くて、足がすくんでしまったのだ。
駆け戻って家の横まで戻ったものの、やっぱり行かなくちゃ、ともう一度引き返し、と繰り返しているうちに、息を切らしながら母が追いついてきた。
「言ってきた?」
母は、こう言うなり、私の手をぐいと引っ張って石段を登り始めた。
学校の校舎の入り口で、母は出てきた小使いさんに、取次を頼んだ
ホッ!
これで役目は終わった、と思ったのは甘かった。
「〇〇先生は、今日はお休みですよ」
母は、また私の手を黙ってグイッと引っ張ると、家とは反対側の校門から外へ出た。
すごい速足で、私は片手を引かれながら、前のめりに小走りでついて行った。
足を止めたのは、枯草の空き地の中だった。
この出来事が私の人間形成に教育的効果をもたらしたとは、残念ながら、全く言えない。
終わり
[…] ・・・つづく […]